「まさかうちの子が…」という現実
「2型糖尿病」と聞くと、多くの人は中高年の生活習慣病を思い浮かべるだろう。しかし、いま日本では、この病気が小学生の間でもじわじわと増加している。これは遺伝の問題だけではない。むしろ最大の要因は、親の生活習慣、そして「育て方」にある。
食べ物に対する価値観、運動への関心、家庭内でのルールづくり…。これらすべてが子どもの体をつくり、将来を決めている。そして、子どもの健康を守るはずの親が、その無知や怠慢、あるいは“甘やかし”によって、逆にわが子を病気へと追いやっているという現実があるのだ。
9歳でインスリン治療。ある少年の記録
東京都内に住む小学4年生のAくん(仮名)は、ある日突然、学校の健康診断で「血糖値が高すぎる」と指摘された。再検査の結果、医師から伝えられた診断は「2型糖尿病」。通常、40代以降に多く見られるこの病が、わずか9歳の彼を襲った。
Aくんは身長135cmで体重48kg、明らかな肥満体型だった。家庭では食事の時間に制限はなく、毎日好きなだけお菓子やジュースを摂取。野菜はほとんど食べず、夜遅くまでゲームやスマートフォンに夢中になる日々。運動習慣もなく、週末はほぼ自宅で過ごしていた。
医師から指摘されたのは、「家庭環境そのものが病気の原因だ」という事実。親は「そんなに悪いとは思っていなかった」「食べたいものを食べさせていただけ」と言うが、それが命取りになった。
親の“無意識の虐待”という罪
小児の2型糖尿病は、急激に症状が悪化することは少ない。しかし、放置すれば、将来的には心筋梗塞、失明、人工透析、さらには四肢切断という深刻な合併症につながる恐ろしい病だ。
その危険性を、どれだけの親が本当に理解しているのだろうか。
「うちの子は元気だし、少しくらい太ってても大丈夫」
「甘い物くらい食べたっていいでしょ」
「運動が嫌いなのは性格だから仕方ない」
こうした言葉の裏には、無関心、怠慢、そして“愛情のすり替え”がある。「好きなものを与える=愛」ではない。「将来健康でいてほしい」と願うなら、今すぐにでも行動を変えなければならない。無知ゆえの放任は、無意識の“虐待”とすら言えるのだ。
食卓が未来を決める
2型糖尿病の予防には、規則正しい食生活が欠かせない。子どもに必要なのは、バランスのとれた栄養であり、適度な量であり、そして“食育”だ。
実際、同じ年齢でも、食生活に気を配る家庭では、肥満や糖尿病リスクのある子は激減する。加工食品やファストフードを減らし、自炊中心の食事にするだけで、血糖コントロールは飛躍的に改善される。ジュースを水に変え、菓子を果物に置き換え、夜9時以降の食事を避けるだけでも大きな効果がある。
もちろん、親も一緒に変わらなければ意味がない。子どもにだけ野菜を押しつけ、親がソファでポテトチップスを食べていては、説得力など皆無だ。
スマホよりボールを。運動の価値
子どもの運動不足も深刻だ。特に都市部では、公園で遊ぶ機会も少なく、コロナ禍以降はさらに外遊びが減ってしまった。
だが、たとえ狭い室内でも、工夫次第で運動の習慣は身につけられる。ラジオ体操、ストレッチ、YouTubeのダンス動画…。重要なのは、「毎日体を動かすのが当たり前」という意識を家庭内で育てることだ。
スマートフォンを与える前に、外で一緒に走ったことがあるだろうか。ゲームに夢中になる我が子を「仕方ない」と見逃してきた結果が、病気として跳ね返ってきているのではないか。
「うちの子だけは大丈夫」という幻想
2型糖尿病に苦しむ子どもたちは、全国で確実に増加している。10年前には考えられなかったほど、今や小学生でもインスリンを持ち歩く時代だ。
しかもこの病気は、たとえ薬で一時的に血糖値をコントロールしても、根本的な生活習慣が変わらなければ、完治は難しい。つまり、病気を「つくらない」ことが唯一の対策であり、予防こそが最大の愛なのだ。
「うちの子だけは大丈夫」という考え方は、もはや通用しない。「今はまだ元気」だからこそ、将来のリスクを減らす行動を今すぐに始めるべきなのだ。
親として、今できること
2型糖尿病は、決して「子どもが悪い」病気ではない。食べ物を与え、生活環境を整えるのは、親の責任であり役目だ。責任逃れはできない。
では、今からでも親として何ができるだろうか。
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毎日、野菜を必ず一皿加える
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夕食後はスマホを取り上げて家族でストレッチ
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お菓子は“イベント”に限定し、日常からは排除
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親も一緒に健康的な食事と生活リズムを守る
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子どもの身体測定結果を真剣に受け止める
小さな変化が、子どもの人生を大きく変える。今こそ、「我が子の未来は自分の手にある」と自覚する時だ。
終わりに
小学生で2型糖尿病——それは、子ども本人に責任はない。親の生活、親の価値観、親の選択が、子どもの健康を決めている。
愛するわが子が、毎日注射を打ち、食事を制限し、将来に怯える人生を送ることになってしまったら、それは本当に「愛した結果」なのだろうか。
悲劇を繰り返さないために。今、親が変わらなければならない。
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