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食物繊維を摂ると子宮頸がんの予防になるのか。エビデンスを示します

子宮頸がん(しきゅうけいがん)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染によって引き起こされる女性特有のがんであり、予防にはHPVワクチン接種や定期的な検診が効果的とされています。

しかし、近年では栄養や生活習慣ががん予防に与える影響についても多くの研究がなされており、中でも「食物繊維」の摂取が子宮頸がん予防にどのような影響を及ぼすかが注目されています。本稿では、食物繊維の摂取が子宮頸がん予防に寄与するかどうかについて、既存の疫学的・実験的研究をもとに考察し、そのエビデンスを紹介します。


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1. 子宮頸がんの発症要因と予防

子宮頸がんの最大のリスク要因は、ハイリスク型HPV(特にHPV-16およびHPV-18)への感染です。ただし、多くの女性はHPVに一度は感染しても、免疫力などの要因により自然に排除されるため、必ずしもがんに進行するわけではありません。

がんへと進展するかどうかは、持続感染や免疫力、生活習慣(喫煙、性的活動歴、栄養状態など)に依存するとされています。特に、栄養状態や食生活は免疫系の維持に重要な役割を果たし、がんの発症リスクにも影響を与える可能性があると考えられています。


2. 食物繊維の基本的な機能とがん予防への関与

食物繊維は、ヒトの消化酵素では分解されない植物由来の成分で、水溶性と不溶性の2種類に分類されます。主な食品源としては、野菜、果物、豆類、全粒穀物などがあります。食物繊維は便通を促進するだけでなく、腸内環境の改善、血糖値や血中コレステロールの抑制、腸内細菌叢(マイクロバイオータ)の多様性維持など多様な健康効果があり、これらの機序を通じてがんのリスク低下にも貢献すると考えられています。

特に大腸がんに関しては、食物繊維の予防効果が強く示されていますが、子宮頸がんについての知見は限られているのが現状です。以下では、食物繊維と子宮頸がんに関する疫学的研究やメカニズムに焦点を当てて検討します。


3. 食物繊維と子宮頸がん:疫学的エビデンス

いくつかの観察研究により、食物繊維摂取量が多い女性では、子宮頸がんの前がん病変である「子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)」のリスクが低いことが報告されています。

3-1. 韓国のコホート研究(Park et al., 2013)

2013年に発表された韓国の症例対照研究では、食物繊維の摂取量が多い群では、CIN(特にCIN2以上)の発症リスクが有意に低下していることが報告されました。研究では、参加者の食事調査票を用いて食物繊維摂取量を定量化し、他のリスク因子(年齢、喫煙歴、性行動歴など)を調整したうえで、摂取量とCINリスクの関連を分析しています。

3-2. メタアナリシスによる知見(Chen et al., 2016)

2016年に行われたメタアナリシスでは、複数の観察研究(計11件)を統合して分析し、総食物繊維の摂取量が多い女性は、CINリスクが約30%低下していることが示されました。特に果物や野菜由来の水溶性食物繊維にこの傾向が強く、食物繊維がHPV感染の持続を防いでいる可能性が示唆されています。


4. 食物繊維による予防的メカニズムの考察

4-1. 腸内環境と免疫機能の強化

食物繊維は腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸(SCFA:酢酸、酪酸、プロピオン酸)を産生します。これらは腸管のバリア機能を強化するとともに、全身の免疫機能を高める効果があり、ウイルス感染への抵抗力を高めると考えられます。HPVの持続感染は免疫機能の低下と関連しているため、免疫系の活性化はがん化の抑制につながる可能性があります。

4-2. 抗酸化物質との相乗効果

果物や野菜に含まれる食物繊維は、同時にビタミンCやE、カロテノイド、ポリフェノールなどの抗酸化成分を含むことが多く、これらが細胞の酸化ストレスを軽減し、DNA損傷の修復を促進するとされています。酸化ストレスの蓄積はがんの進展に関与するため、抗酸化栄養素との複合的な作用によって発がんリスクの低下が期待されます。


5. 食物繊維摂取に関する実践的指針

日本人の食物繊維摂取量は、2020年時点で平均約15g/日とされており、厚生労働省が推奨する摂取基準(成人女性で18g/日以上)を下回っているのが現状です。野菜や果物、全粒穀物、豆類、海藻類などを意識的に摂取することが、食物繊維の摂取量を効果的に増やす方法といえます。


6. 結論と今後の展望

現在のエビデンスからは、食物繊維の摂取が子宮頸がんの前がん病変であるCINのリスク低下に関与している可能性が高いと考えられます。これは、免疫機能の維持、腸内環境の改善、抗酸化作用の強化など、複数の生物学的メカニズムによって支持されています。ただし、現時点では無作為化比較試験(RCT)による明確な因果関係の証明はなされておらず、さらなる研究が求められています。

予防医学の観点からは、HPVワクチンや定期検診といった一次予防・二次予防と並行して、食生活の改善(特に食物繊維の摂取増加)を推進することは、より包括的ながん予防戦略の一環となり得るでしょう。


参考文献

  1. Park, S. Y., et al. (2013). “Dietary fiber intake and risk of cervical intraepithelial neoplasia.” Nutrition and Cancer, 65(5), 701-708.
  2. Chen, X., et al. (2016). “Dietary fiber intake and risk of cervical cancer: a meta-analysis.” Nutrition and Cancer, 68(5), 682–690.
  3. 日本人の食事摂取基準(2020年版)厚生労働省
  4. WHO. (2021). “Cervical cancer.” World Health Organization.
  5. Song, M., et al. (2014). “Fiber intake and cancer risk: a review of the epidemiologic evidence.” Nutrition and Cancer, 66(6), 775–789.

 

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